うごめく闇の向こう側4






うごめく闇の向こう側4






「新しい秩序……」
闘志を漲らせ語るツバキとその熱が伝染し頬を緩ませるサクラに、一人同調出来ないユウキは静かに眉を潜めた。
彼は、目の前にある現実を憎み、理想を掲げ野心を貫くことで、爆発してしまいそうな怒りを繋ぎ止めている。
類稀な戦闘力に恵まれていても、彼らは人と魔族の子。
魔族の膨大な力と、人間の弱さ、ふたつを持ち合わせている、とても不安定なDNA。
人でも魔族でもない心と身体が、彼らを一番苦しめている。
「でも。今の王様は人との共存を望んでいるって聞いたよ?一部の人からも支持されてる
って噂もあるし……」
奮い立つ二人に対し、水を指すようなユウキの台詞にツバキは冷めた眼差しを送る。
「ふっ。共存、か。お前だって知っているだろう。歴代の王たちが下した命令で、迫害され殺されていった数多くの人間たちを。どうせ今の王も同じだ」

「わたしの家族も、彼らに殺されたのよ」
嘲笑い吐き捨てるツバキに、サクラの瞳が哀しみに揺れる。
ツバキから放出される黒い感情は、感染病のような広がりを見せサクラの暗い記憶を呼び起こし、哀しみを蘇らせる。
確かに、歴代の魔王たちが行なってきたことを、ユウキは知っている。
彼らに対する虐殺まがいな行動の数々や、偏見のこもった侮蔑の眼を幾度となく目にしてきた。
けれど、種族の間にある隔たりを鎮静化させ、混迷する地をひとつに纏めようとしているのも、その王なのだ。

「俺は王に絆された一部の人間とは違う。お前もそうだろう?」
ツバキが、同意を求める。
魔族からの謂れのない誹謗中傷の標的となるのは、人であるという理由だけで十分なのだ。
「ヤなことはいっぱいあるけど……」
街を歩いているだけで注がれる白い視線は、今も昔も変わらない。
謂れのない因縁を付け、憂さ晴らしの対象とされ、数人に絡まれることもしょっちゅうだ。
「お前は、この世界が異常だとは思わないのか?」
「そ、そんなの、よく分からないよ……」
ユウキは力なく言った。
世界がどうのこうのという話しなど、難しすぎて分からない。
どれだけ偏見の目で見られ罵られようと、ユウキに憎しみは生まれない。
怪我をすれば当然痛いし頭にもくる。
が、魔族たちの行為が『善』なのか『悪』なのか、ユウキにとってどちらでもよかったし、これがこの世界の今の形だと理解している。

「腑抜けだな」
 冷たい双眸がユウキを突き刺す。完全に、軽蔑しきった目だった。
「あっ」
 ユウキは己の発言の失態にようやく気が付いて、唇に手を当てた。
分からない、と言うことは自分の頭では処理出来ないと同じである。
意思をはっきりさせず逃げてしまったユウキに、ツバキは失望したのだ。
(どうしよう)
ユウキの中で焦りが生まれるが、一度口にしてしまったことは今更取り消せない。
「どうやら、お前に頼んだ俺がバカだった。もう用はない。さっさと消えろ」
 席を立ち、浴びせられた言葉にユウキの呼吸が停止する。
『帰れ』ではなく『消えろ』。
つまり二度と姿を見せるな、という意味だ。
「ま、待って!」
 言いたいことだけを言い、椅子から立ち上がったツバキを、ユウキは悲鳴に近い声で袖を掴んで引き止めた。
「あ、あたしやるっ。ツバキくんの役に立つなら、囮役でも何でもやるっ!」
 だから捨てないで。
ツバキに、失望されたくない。そのためになら、自分を危険に晒すことなど厭わない。
懇願にも似たユウキの叫び声は、しかしツバキの乾いた感情を潤す雫にはなりはしない。
「…………」
ツバキは無言でユウキを見た後で、袖にかかる指を振り払い、椅子に座り直した。








  

@@あとがき@@
報われないなぁ…ユウキちゃん……。
今回で、ツバキちゃんサイドは終了になります。
さ〜て、次回は!また新たなキャラが出ます。

















SEO対策 ショッピングカート レンタルサーバー /テキスト広告 アクセス解析 無料ホームページ ライブチャット ブログ