宵闇の攻防5







宵闇の攻防5









「おい、いね〜じゃねぇか!」
指示された大量の食べ物を物をすべて買い揃え、別れた場所へと再び戻って来た遠矢は、忽然とその姿を消していた雪乃とアーシェミリアの二人に、ふつふつと湧き上がる怒りを抑えることができなかった。
「あ〜い〜つ〜」
ここで大人しく待っていろ、と念を押したというのに。
両手に食べ物を抱え、もみくちゃにされながら必死に戻った遠矢を出迎えたのは雪乃ではなく、ひゅるり、とした冷ややかな空気。
怒らずには、いられない。
遠矢は、りんご飴を持った右手をわなわなと震わせる。
「本当に知らない奴に付いて行ったってことはないだろうな?」
遠矢の一歩、後ろに立っていたカイキが、困惑しながら忙しなく首を左右に動かし雪乃たちを捜す。
だが、いかんせん人が多すぎる。
たった15分ほどしか経っていないはずだが、先ほどよりも人の流れが激しくなっている。
目視できる範囲にいない限り、自力で見つけ出すのはかなり困難だ。

「お前な〜。何でそんな冷静に言えんだよっ。あいつは大人しくしている、って答えておきながら勝手にどっか行ったんだぞっ。少しは怒れよ!」
雪乃の身勝手さを責めず、平然と構えるカイキに腹が立ち、一人地団駄を踏んでいる自分が何故か子どもじみて見え、遠矢はりんご飴をカイキに突き付け、半ば八つ当たりのように叫んだ。
「何を熱くなっているんだ。お前こそ落ち着いたらどうだ?相手はあのユキなんだぞ?」
カイキは呆れたような表情を浮かべ、そこまで怒る理由がわからない、とばかりに言う。
雪乃の突飛な行動に振り回されるのはいつものこと。
いちいち騒ぐほどのことではない、と彼は言外に語っている。 
「それは……まぁ……」
確かに。
雪乃の自己中な思考回路や、それにより引き起こされるむちゃな行動は、今にはじまったことではない。

が。

たとえ何百、何千回と被害に合っていたとしても、それが日常化しているとしても、カイキのような温かい心で甘受することは、遠矢には無理だった。
それが子どもっぽい、と言われても、無理なものは無理。
腹がたつのだから。


「自力で捜し出すのは、無理そうだな……。遠矢、居場所はすぐにわかるか?」
「当たり前だろ」
「なら、すぐに捜してくれ」
「ふん」
言われなくても、そうする。
何だか彼の指示に従っているような流れになってしまい面白くないが、ここで立ち話をしていても仕方がない。
遠矢は深く息を吐き、乱れた心をいったん鎮めに入る。
人が多すぎて雑音や気配に周囲は溢れているが、雪乃を見付け出すのに支障はないだろう。
扉を開くような感覚、とでも言おうか。
閉ざしていた力を少しだけ開放し、求めている対象を、強く想う。


――――雪乃。



遠矢の感覚が鋭さを持ち、それまで、周囲を支配していた人々の喧騒や気配が、小さくなっていく。
そして、入れ替わるようにして、一つの望む気配が水底から浮上するかのごとく、生まれる。
その他大勢の気配とは異なる、異質な気配。


(見つけた!)
遠矢のセンサーが、雪乃をとらえた。
ここより少し離れた、おそらくは神社の裏あたりだろうか?


(ンなところで、何をやってんだ!)
居場所が判明した途端、心の中で叫ぶ。
祭りに浮かれはしゃいでいるのならまだしも、わざわざあんな離れた場所に足を向けるなど……。


もしかして……嫌がらせか?


「おい遠矢。居場所はわかったのか?」
黙ったまま動かない遠矢に、カイキが痺れを切らし、詰め寄る。
遠矢と違い、雪乃の存在を感知できないカイキにとって、この沈黙はさぞかし耐えられないことだろう。
遠矢と彼女の間にある、けして切れることのない絶対的な繋がりの前では、カイキの想いなど、無力。
普段バカにされている分、こういう時に少しだけ優越感を覚える遠矢である。
「……こっちだ。案内する」
けれど、いつまでもそれに浸っているわけにもいかない。
遠矢は自由にならない手の代わりに、くいっと顎をしゃくり進行方向を示し、神社の裏へとつま先を向ける。

「す、すいません。通してくれ」
小さく謝りながら人々の間にある僅かな隙間に入り、遠矢とカイキは歩を進める。
まともに身動きが取れない混雑の中、強引ともとれる遠矢たちの動きに、迷惑そうな視線がいくつも注がれるが、気にしている暇はない。
すいません、と平謝りを繰り返し、両手に下げているビニール袋に注意を払いつつ、人が通らない屋台の裏側へと移動して、やっとの思いで人ごみから脱出する。
塗装されていない、木の根っこが剥き出しの狭い道だが、ここから走った方が早いだろう。

と。
「あっ。カズキさん!」
名を、呼ばれた。昔の名を。
ここでそれを使うのは、一人しかいない。
声のした方へ振り向くと、たどたどしい足取りで走って来る少女がいた。
「アーシェミリア?」
一人であると確認し、どうしてここに、と遠矢は目を見開く。
彼女は、雪乃と一緒にいるはずではないのか。
途中ではぐれたのだろうか。
疑問を抱きながらアーシェミリアに近付いて行く遠矢だが、彼女から投げかけられた言葉は、予想外なものだった。
「た、たいへん、ですっ。は、はやく、早く雪乃さんを、たす、助けに行って下さいませ!」
息を乱し、切れ切れと叫んだアーシェミリアは、焦りの滲んだ表情で遠矢の腕を掴んだ。
「助けるって、彼女の身に何か起こったのですかっ」
彼女は、遠矢に言ったはずなのに。
その遠矢を邪魔、とばかりにぐいっ、とアーシェミリアから引き剥がし、カイキが詰め寄る。
「は、はい。わたくしたちがお話しをしていたら、いきなりドーンと木が倒れてきて、でもわたくしは雪乃さんが守って下さったおかげで無事だったのですが、その際、雪乃さんが足をくじいてしまって。お一人では歩けないようなのです!」
瞳を潤ませて、一気にアーシェミリアは説明した。


























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